食品添加物の「天然」と「合成」:科学的定義と安全性に関する科学的見解
食品添加物に関して、消費者の間で「天然だから安全」「合成だから危険」といった認識が見られることがあります。しかし、食品添加物の安全性は、その由来が天然であるか合成であるかのみによって判断されるものではありません。科学的な観点から、天然添加物と合成添加物の違い、そして安全性評価に関する基本的な考え方について解説します。
食品添加物の「天然」と「合成」に関する科学的な定義
食品添加物は、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用される物質を指します。この食品添加物は、大きく分けて「指定添加物」「既存添加物」「天然香料」「一般飲食物添加物」の4つの区分に分類されます。このうち、「指定添加物」は化学的な合成によって作られたものが多く、「既存添加物」や「天然香料」は天然物から抽出されたものや天然物そのものである場合が多い傾向にあります。
- 天然添加物: 一般的に、動植物や鉱物などの天然物から抽出、または天然物を原料として製造される添加物を指します。例としては、クチナシ色素、カロテノイド色素(パプリカ色素など)、カラギナンなどが挙げられます。
- 合成添加物: 化学的な合成反応によって人工的に作られる添加物を指します。ただし、これは天然物から抽出される成分と全く同じ化学構造を持つ場合も含まれます。例としては、ビタミンC(アスコルビン酸)、サッカリン、ソルビン酸などが挙げられます。
ここで重要なのは、食品添加物の区分は、由来だけでなく、その成分の特定性、利用の歴史、製造方法なども考慮されて定められているという点です。単に「天然物から抽出したかどうか」だけで厳密に区分されるわけではありません。日本の食品衛生法における「指定添加物」とは、食品安全委員会による安全性評価を受け、厚生労働大臣が使用を許可したものであり、その多くが化学的に合成されたものです。一方、「既存添加物」は、我が国において既に使用されており、広く使用されている実態や長い食経験があるものとしてリスト化されたもので、これには天然物由来のものが多く含まれます。
製造方法と供給源の違い
天然添加物と合成添加物では、その製造方法や供給源に違いが見られます。
- 天然添加物: 植物の葉や果実、根から色素や香料を抽出したり、海藻から増粘安定剤を抽出したりするなど、天然物を原料とする物理的または単純な化学的処理を経て製造されることが多いです。供給量は天候や収穫量に左右される場合があります。
- 合成添加物: 石油などを原料として、複雑な化学反応プロセスを経て目的の化学物質を人工的に合成します。化学的な構造を意図的に設計・調整できるため、品質が安定しており、大量生産が可能です。
安全性評価に関する科学的な考え方
食品添加物の安全性は、その由来が天然であるか合成であるかにかかわらず、科学的な毒性試験に基づき評価されます。食品安全委員会などの専門機関は、様々な動物実験やその他の科学的手法を用いて、添加物を摂取した場合の人体への影響を詳細に調べます。
安全性評価では、以下の点が特に重視されます。
- 毒性試験: 急性毒性、亜慢性毒性、慢性毒性、発がん性、遺伝毒性、生殖発生毒性など、様々な種類の毒性試験が行われます。これらの試験によって、どのような量でどのような毒性影響が現れるかが調べられます。
- 無毒性量(NOAEL): 試験で毒性影響が全く認められなかった最大の投与量が特定されます。
- 一日摂取許容量(ADI): 無毒性量に安全係数(通常は100)を適用して算出されます。これは、人が一生涯にわたり毎日摂取し続けても健康に影響がないと推定される一日あたりの最大量です。
この安全性評価プロセスは、天然物由来であっても化学的に合成されたものであっても、原則として同じ科学的な基準と手順に基づいて行われます。
「天然だから安全」ではない科学的根拠
天然物の中には、フグ毒やキノコの毒、特定の植物に含まれるアルカロイドなど、強力な毒性を持つものが多数存在します。また、特定の天然物に含まれる成分が、人によってはアレルギー反応を引き起こすこともあります。つまり、「天然であること」は、必ずしも「安全であること」と同義ではありません。
一方、化学的に合成された添加物は、その化学構造が明確であり、不純物の混入も厳密に管理されます。安全性評価は、特定の化学物質に対して厳格に行われ、その毒性が詳細に調べられた上で使用の可否や使用基準が定められています。適切に管理・使用される限りにおいて、安全性は科学的に担保されていると言えます。
消費者が食品添加物について考える際には、その由来が天然か合成かといった感覚的な判断ではなく、科学的な安全性評価がどのように行われているか、そしてその物質が科学的に安全性が確認されているかどうかに基づくことが重要です。食品表示に記載されている情報を、科学的根拠に基づいた情報と照らし合わせながら理解することが、正確な知識を得る上で役立ちます。
まとめ
食品添加物の「天然」と「合成」という分類は、その由来や製造方法の違いを示すものであり、必ずしも安全性の度合いを直接的に示すものではありません。食品添加物の安全性は、由来に関わらず、科学的な毒性試験に基づく厳格な評価によって確認されています。
「天然だから安全」「合成だから危険」という単純な二元論ではなく、個々の食品添加物について、科学的根拠に基づいた情報に目を向けることが、食品に関する正確な理解につながると考えられます。食品の安全性に関する情報を得る際には、信頼できる公的機関や専門機関が提供する科学的なデータや評価を参照することが推奨されます。